日本で土葬はできる?現状のルールとメリット・デメリットを徹底解説

日本の法律で土葬することは許可されているのか?
故人をどのように見送るか。それは、残された人々にとって大切な選択です。
日本の火葬率は99.97%と世界トップクラス。
そのため、「日本では火葬が義務付けられている」と思われがちですが、実はそうではありません。
では、なぜこれほどまでに火葬が一般的で、土葬は難しいというイメージがあるのでしょうか?
この記事では、日本の埋葬の歴史から、現在の土葬に関するルール、衛生面の問題、そしてエンバーミングとの関係まで、知られざる土葬の今を徹底解説します。
果たして、日本で土葬は可能なのか?その疑問を一緒に解き明かしていきましょう。
1. 土葬とはどんな埋葬方法?

土葬とは、ご遺体をお棺に入れ、土の中に直接埋める埋葬方法の一つです。
縄文時代から日本でも行われてきた歴史ある方法で、ご遺体をそのまま埋める方法のほか、甕(かめ)や桶に手足を折り曲げて埋葬する「屈葬」なども見られました。
土葬を行うには、棺桶を収めるための広い土地が必要となり、周囲の衛生に影響を与えないよう、2メートル以上穴を掘って埋葬する配慮が求められます。
世界的に見ると、キリスト教圏やイスラム教圏など、土葬を伝統的な埋葬方法とする国も数多く存在します。
2. 日本での土葬の現状

現在の日本では、土葬が法律で明確に禁止されているわけではありません。
実際、「墓地、埋葬等に関する法律」では、「埋葬(ご遺体を土の中に葬ること)」と「火葬」の両方が認められています。
| 埋葬方法 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 火葬 | 約1,561,000件 | 約99.97% |
| 土葬 | 462件(うち成人88件) | 約0.03% |
出典:厚生労働省「衛生行政報告例 令和3年度」
しかし、このグラフが示すように、現実的には土葬の実施は極めて困難です。
その主な理由は以下の通りです。
-
土地の確保の難しさ: 土葬には広い土地が必要ですが、特に都市部では土葬を許可する霊園や墓地がほとんどありません。
-
自治体による条例: 「墓地、埋葬等に関する法律」の下、各自治体が独自の条例を定めており、多くの地域で土葬自体を禁止、または極めて厳しい条件を設けています。そのため、土葬ができる場所を探すのは非常に困難です。
-
具体的な事例: たとえば長野県の一部地域や沖縄県では、条例で土葬が完全に禁止されていない場所も存在します。また、特定の宗教法人系の霊園(例:イスラム教徒のための墓地など)では、限られた区画で土葬を受け入れているケースもありますが、一般の人が自由に利用できる機会は極めて稀ですし、費用も高額になりがちです。
-
衛生面への配慮: 後述しますが、ご遺体の腐敗による地下水汚染や感染症のリスクが懸念され、住民の理解を得にくいという問題があります。
Q. 日本では火葬が義務付けられているの?
A. 義務ではありません。ただし、現実的に火葬以外は難しいのが現状です。
「墓地、埋葬等に関する法律」では「埋葬または火葬」が認められており、法律上は土葬も可能です。
しかし、多くの自治体が条例で土葬を禁止・制限しており、土葬を受け入れる墓地もほとんどないため、事実上は火葬が主流となっています。
3. 土葬と衛生上の課題

埋葬されたご遺体はいずれ土に還りますが、その過程での腐敗による衛生上の問題が、土葬の大きなデメリットとされています。
主な懸念点は以下の通りです。
-
地下水汚染のリスク: ご遺体の腐敗が進むと、バクテリアや分解生成物が土壌に浸透し、地下水を汚染する可能性があります。これにより、生活用水や農業用水が汚染され、感染症(例:過去にコレラなどのリスクが指摘された事例)を引き起こすリスクが指摘されてきました。
-
感染症の懸念: 実際に、土中に埋められたご遺体が原因で、感染症が引き起こされた事例も報告されています。
-
風評被害: 実際に、土葬墓地の建設計画が地元住民の強い反対により頓挫した事例も存在します。これは、生活用水の汚染や農業への風評被害を懸念する声が大きかったためです。
こうした衛生上の懸念が、土葬が広く受け入れられない理由の一つとなっています。
4. エンバーミングと土葬の関係性

エンバーミングとは、「遺体衛生保全」とも訳され、ご遺体に殺菌消毒、防腐、修復、化粧などを施し、故人を生前の姿に近づける処置のことです。
これにより、腐敗や感染症を防ぎ、ご遺体を衛生的に長期間保存する技術です。
主に土葬を行う国々では、ご遺体からの感染症を防ぐために、このエンバーミングが広く行われています。
土葬をする際は、日本であってもエンバーミングは非常に重要とされています。
日本では、故人の死後、比較的迅速に火葬が行われるため、エンバーミングがおこなわれるケースは比較的少ないです。
しかし、土葬を検討する際には、衛生管理の観点からエンバーミングが不可欠となります。
補足:海外への“逆搬送”という選択肢
土葬が宗教上や文化的に不可欠な場合、ご遺体を海外の故郷へ送る「逆搬送(国際搬送)」という選択肢も存在します。
しかし、これは非常に複雑で、専門の国際搬送業者への依頼が必要になります。
主なプロセスと費用目安:
-
防腐処理(エンバーミング): 衛生管理のため必須。
-
書類手続き: 出入国に必要な各種証明書や許可証。
-
航空貨物手配: ご遺体専用の輸送手配。
-
現地の受け入れ手配: 故郷での埋葬許可など。
これらのプロセスを含めると、費用は数十万円から100万円を超えるケースも珍しくなく、時間的、精神的な負担も大きいのが現状です。
5. 土葬のメリット・デメリット

土葬には、他の埋葬方法にはない特徴があります。
ここでは、そのメリットとデメリットをまとめてご紹介します。
□ 土葬のメリットとは?
-
「土(自然)に還る」という思想: ご遺体を火葬せずに土に埋葬するという方法は、古くから人々の間に根付く自然回帰の思想に基づいています。
-
環境負荷の低さ:火葬とは異なり燃料を必要としないため、火葬時に排出されるCO2などを考慮すると、環境への負荷が低い埋葬方法とも言われています。
□ 土葬のデメリットとは?
-
多くの土地が必要: 土葬を行うには、2メートル以上の深さや広い土地が必要となります。特に都市部では墓地などの土地が不足しており、新たな土葬墓地を確保することは極めて困難ですし、費用も高額になりがちです。
-
衛生面の問題: 火葬と違い、土葬されたご遺体が腐敗すると、その影響が地下水に及ぶ可能性があり、感染症のリスクが懸念されます。
-
法的な制約と地域差: 法律で禁止されていなくても、多くの自治体の条例で土葬が制限されているため、土葬を行える場所が非常に限られています。
6. なぜ土葬に違和感があるのか?

日本では法律上、土葬も認められています。
しかし実際には、火葬が圧倒的に主流であり、多くの日本人にとって土葬は「見たことがない」「なんとなく怖い」「異文化的なもの」と感じられているのが現実です。
「かつては土葬だったが、時代とともに減っていった」というより、現代の日本人の多くは、そもそも土葬の記憶も実感も持っていません。
火葬は戦後以降、制度面・衛生面・文化的背景から急速に普及し、いまや「火葬が当たり前」という常識が根付いています。
ここでは、「なぜ日本人が土葬を選ばなくなったのか」という感覚的な背景と、それに代わる現代的な埋葬スタイルを紹介します。
| 埋葬方法 | 埋葬スタイル | 費用相場(火葬含む) | 環境負荷 | 維持管理 | 実現性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 一般墓 | 火葬+墓地埋葬 | 約80〜150万円 | 低 | 必要 | ◎(主流) |
| 樹木葬 | 火葬+自然埋葬(樹木の下など) | 約30〜80万円 | 低〜中 | ※必要な場合あり | ◎ |
| 海洋散骨 | 火葬+海へ散骨 | 約10〜30万円 | 低 | 不要 | ◎ |
| 納骨堂 | 火葬+屋内に安置 | 約10〜150万円 | 低 | ※契約内容による | ◎ |
| 土葬 | 火葬なしの直接埋葬 | 約50〜100万円以上 | 中〜大 | 必要 | ×(極めて困難) |
※「維持管理」は霊園の規定や契約内容により異なります。
今後は、「供養のあり方」そのものを柔軟に考える人が増えることで、選択肢がさらに広がる可能性もあります。
従来の形式にとらわれず、自分たちらしい形を模索する時代に入っているのかもしれません。
7. 土葬がほぼ不可能な理由とは?

日本では法律上土葬が完全に禁止されているわけではありません。
しかし、広大な土地の確保が難しく、自治体の条例による厳しい制限、さらには衛生面への懸念も伴います。
こうした制度的なハードルに加え、多くの日本人にとって「火葬」は当然の文化であり、「土葬」には不衛生、非近代的、怖いといった強い拒否感や嫌悪感があるのが現実です。
これは、長年にわたって築かれてきた死生観と衛生観念による「感情の壁」と言えるでしょう。
たとえ法的に整備されたとしても、日本社会において土葬が一般的な選択肢となる日は、まず訪れないはずです。
現代日本では、土葬は制度の問題ではなく、文化と感情によってほぼ不可能になっている埋葬方法だと言っても過言ではありません。
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